※ネタバレ注意
賑やかなハロウィンの夜。 去年まで、奉花にとってそれはひどく遠いものだった。 自分はまだ、本当にあの暗くて怖い場所から抜け出せることができているのだろうか。 実は今この幸せは夢か幻で、本当は、この体は暗闇に絡めとられたままなのでは・・・・・・ そんな不安が、光に満ち溢れた場所に踏み出そうとする足を引き留める。
大切な人――奉花は、そう思える相手を見つけた。その人 はいつだって前を向き、皆のことを光差す方向へと導いて いく。彼女にとってそんな彼の存在は眩しすぎて、触れる ことすらはばかられてしまって……けれど、外ならぬ彼 が、手を差し伸べてくれた。明るい場所へ連れ出してくれ た。だれかこそ、彼女は決意する。いつまでも、暗闇で蹲 っているだけでは駄目だと。そんな自分では恥ずかしく て、彼の傍に立つこともできないから。
楽しいハロウィンの夜。大切な人に連れ出された先にあっ たのは、平和な日常の風景。けれど、奉花はその中に混じ る一歩をためらってしまう。耳元で誰かが囁く。どうして お前だけがそんな場所にいるのか。お前だけが救われてい いと思っているのか。お前だって汚い暗闇で染まった人間 じゃないか。過去に置き去りにした沢山の亡霊が、奉花の 心を強く縛り付ける。
暗闇から光差す場所に、大切な人の温かい手が連れて行っ てくれる。その温もりさえあれば、絡みつく亡霊の声も振 り払い、歩みだすことが出来る。けれど、過去から追って くる暗闇が足を取り、引き戻そうとする。それに逆らい進 んでいくことは決して簡単なことではない。しかし、奉花 は決して戻らない。あの人と一緒に明るい場所へ……恥じ ることのない自分になって、あの人の隣に立ちたい。そう 願うから。
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